最後の乾杯

お互いの結婚と仕事に対する考え方の違いを話してから、何となく二人の距離が遠くなってしまったような毎日…。
メールの回数もビミョウに減ってきて、仕事帰りのデートの回数も減っちゃった。
メールの中で「結婚観」とか「結婚後の仕事」のことについて触れることはなく、僕の方からもあえて「気持ちの整理はできたかい?」といったことを聞くこともなかった。
そして、何となく気まずい雰囲気を抱えたまま、久しぶりに会うことになった。
彼女は僕らが初めてのデートの時に行った地酒がたくさんある居酒屋に行こうと言ってきた。
ビールで乾杯をして、いつものように他愛のない話しで笑ったり、感心しあったりしていた。
僕が3杯目のビールを注文し、彼女が新潟の地酒を注文した時だった。
ウェイトレスが頭を下げて僕らのテーブルからいなくなると、彼女は急に真面目な顔になり口を開いたんだ。
「この前は正直に話してくれてありがとね。」
「初めて、前の奥さんと離婚したわけを聞いた時から、何となくは感じてたんだけどネ。」
「でも、自分からまた聞くのが怖かったんだ。」
「この前、ちゃんと話してくれて、自分の気持ちをちゃんと整理することができたんだ。」
「…。」
彼女が言葉を選んでいるというのがよくわかった。
そして再び彼女の口が開いた。
「ごめんね。やっぱ私、今の仕事をやめるって言うのは考えられないんだぁ。」
「もちろん結婚したいし、子どもも欲しいよ。でも、今はムリ…。」
「何年後なら大丈夫なんて言えないし、それまで待っててなんて絶対言えないし…。ホント、ごめんなさい…。」
僕はどこかでチョットだけ期待してたんだよね。
彼女が仕事をやめて僕と結婚するってことを選んでくれることを…。
大いなる自惚れってやつだよね。
大好きな仕事を辞めてまで選ぶほどの男じゃないってことなんて、チョット考えれば分かることなのにさ…。
そして彼女は僕が感じていたことと同じことを言った。
「ただ単に恋愛ってだけなら、今が最高にハッピーなんだけどねぇ…。」
「じゃあ、このまま恋愛を続けよっか」という言葉が喉元まで出てきたけれど、口には出さず、気の抜けたビールと一緒に飲みほした…。
44歳からの婚活。
初めてのパートナーとはこの日が最後となった。